大阪高等裁判所 昭和29年(う)1337号 判決
原判決摘示第四事実は引用の証拠で認めることができる。そもそも物の所持とは人が物を保管する実力支配関係を内容とする行為で、人が物を保管する意思を以つてその物に対し実力支配関係を実現する行為をすれば、それによつて物の所持が開始されしかも一旦右所持が開始された以上、その所持人が常にその物を所持しているということを意識している必要なく、いやしくもその人とその物との間にこれを保管する実力支配関係が持続されていることを客観的に表明するに足る容態さえ存すれば、所持は尚存続するものと解すべきであり、覚せい剤取締法第十四条の所持も同一義に解すべきところ、被告人の司法警察員石田貞一に対する昭和二十八年七月十九日及び二十日附の第五、六回供述調書(記録第一八一丁以下)被告人名義の任意提出書(同九七丁)、司法警察員宮崎一男の領置調書(同九八丁)の記載によれば、同判示の覚せい剤は、被告人が犯罪の発覚を恐れて昭和二十八年七月五、六日頃判示藤田屋旅館裏口の壁のこわれた床下に隠匿して置いたところ、同月二十日右司法警察員石田貞一の第六回取調の際、右隠匿の事実を供述し、且同日被告人よりこれを吉敷北地区警察署長宛に任意提出したので、同署司法警察員宮崎一男がこれを領置したものであることが認められるに止まり、記録によると、被告人は同月六日頃警察員に逮捕留置せられたようではあるが、同月二十日以前に右覚せい剤隠匿の事実を警察員に申告してその引き取りを要求したことはこれを窺知し得るものがない。右の如く被告人が警察署に逮捕留置せられる前に、自己の所有物を犯罪の発覚を防ぐため、一定の場所に隠匿蔵置した場合には、たとえ被告人が警察署に留置せられている間といえども、被告人は右物件に対し実力支配を持続しているものというべく、このことは被告人が警察職員に対し単に右隠匿蔵置の事実を供述したことによりては何等影響を及ぼすものではない。然らば前説示の理由により被告人が前記警察署長宛に提出するまで、被告人の本件覚せい剤に対する所持は存続したもので、被告人の逮捕若しくは隠匿蔵置の申告により直ちに所持を喪失したものと解すべきではない。しからば所論の如く、仮りに被告人が同月十五日以前に取調官に対し右申告をしたとしても単にそれだけでは被告人が右覚せい剤を判示日判示場所において所持していたとするに何等の差支えもない。その他記録を精査してみても原判決には右事実に関し誤認もなければ、法律の解釈を誤つた違法もないから、本論旨は理由がない。
(裁判長判事 岡利裕 判事 国政真男 判事 石丸弘衞)